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那覇家庭裁判所 昭和48年(家)1117号 審判

申立人 坂キミヱ(仮名)

事件本人 (亡)坂正行(仮名) 外一名

主文

一  本籍鹿児島県加世田市○○△△番地筆頭者坂正行の戸籍に、同人に関する別紙沖繩の戸籍中、戸主坂正行に関する死亡事項、妻キミヱ、長男正宗、二男正春、長女ヨシ、二女フミ、三男正利に関する各記載事項を全部移記した上、別紙沖繩の戸籍は全部これを消除する。

二  上記坂正行の戸籍の改製原戸籍である本籍鹿児島県加世田市○○△△番地戸主坂五三六の戸籍に、上記妻キミヱ、長男正宗、二男正春、長女ヨシ、二女フミ、三男正利に関する移記事項と同様の必要事項を索連して記載する。

三  本籍沖繩県那覇市字○○△△番地筆頭者坂正春の婚姻事項中「那覇市○○町○○番地の○」とあるを「鹿児島県加世田市○○△△番地」と訂正する

ことを許可する。

理由

一  本件申立の趣旨は、申立人は自分の戸籍は鹿児島県にあることも知らないで去つた戦争で戸籍は全部滅失したものと思い沖繩で戸籍の申告を為し認定整備された結果、二重戸籍となつているので、次のように戸籍の訂正を許可されたいと云うにある。

(1)  本籍の表示鹿児島県加世田市○○△△番地筆頭者坂正行の戸籍を別紙のとおり訂正並びに移記附記を求める。

尚、沖繩県那覇市○○○○番地の○筆頭者坂正行の戸籍中、同籍者マツに付その名「マツ」を「マツ子」と、同人の出生年月日「大正一〇年四月五日」を「大正九年一〇月二〇日」と父母欄中母の名を「亡ツル」と、続柄欄を「長女」と訂正し、身分事項欄を全部消除の上「大正九年一〇月二〇日鹿児島県川辺郡加世田村○○△△番地で出生父坂正行届出同月二六日受付入籍」と登載し本戸籍は重複戸籍に付全部抹消する。

(2)  改製原戸籍の表示、鹿児島県川辺郡加世田町○○△△番地筆頭者坂五三六戸籍中、同籍者正行の身分事項欄中改製戸籍事項を消除し「沖繩県国頭郡金武村字○○△△番地与那峰キミヱと昭和二二年三月五日婚姻届出那覇市長受付同月二五日送付鹿児島県加世田市○○△△番地に新戸籍編成に付除籍」と登載する。

(3)  本籍の表示、沖繩県那覇市○○△△番地筆頭者坂正春の婚姻事項中、那覇市○○町○○番地の○を消除し「鹿児島県加世田市○○△△番地」と訂正する。

二  よつて考えるに、本籍鹿児島県加世田市○○△△番地筆頭者坂正行の戸籍謄本、本籍鹿児島県加世田市○○△△番地戸主坂五三六の改製原戸籍謄本および坂キミヱ、坂ヨシの審問の結果によると、本籍沖繩県那覇市○○町○○番地の○戸主坂正行の戸籍は同人を筆頭者とする鹿児島県加世田市○○△△番地の戸籍と重複して編成されていることが明白であるので本来無効な戸籍である。しかし同人が鹿児島と沖繩に重複して戸籍を有するようになつたのは、当時、沖繩が米国に統治され、本邦の行政より分離されていた関係で、沖繩県外に戸籍を有する沖繩住民には戸籍上の届出が自由になされない状況下にあつた。そこで同人は止むなく沖繩本島の滅失した戸籍が新たに再製されるのに便乗し、自らも戸籍滅失者の如く沖繩の戸籍整備法(一九五三年一一月一六日制定)所定の手続をした結果、沖繩でも戸籍が編成され、重複戸籍を有するに至つたものである。してみると、同人の重複戸籍は沖繩の特殊事情下において必要止むを得ない措置として為されたばかりでなく、琉球政府のもとで、同人およびその親族の身分事項を公証登録してきた事実に徴して考えると、沖繩の戸籍を単に重複戸籍であるとの理由で以て、すべて無効視すべきものではない。

従つて、沖繩が本邦に復帰した現在、同人に関する沖繩の戸籍は、その記載内容が鹿児島の戸籍と相抵触しない範囲で鹿児島の戸籍の仮戸籍的性質および効力を有すると解するのが相当であり、斯く解することが沖繩の復帰に伴う特別措置に関する法律第一条第五三条の趣旨にも沿う所以でもあると解する。

三  そこで、坂正行の複本籍である沖繩の戸籍中、妻キミヱ、長男正宗、二男正春、長女ヨシ、二女フミ、三男正利に関する記載は総て沖繩の行政分離後において、坂正行に関して生じた身分関係であつて、本来の鹿児島の戸籍の記載事項と相抵触するものではないので上述の趣旨に鑑み、これらの事項はすべて同人の鹿児島の戸籍に移記登載するのが相当である。また、坂キミヱ、坂ヨシの審問の結果および沖繩と鹿児島の両戸籍を対比した結果によると、沖繩の戸籍中、子マツに関する記載は鹿児島の戸籍の子マツに関する記載とその生年月日亡母の名において異るところがあるけれども、両者同一人の記載であることが確認でき、かつ、純然たる重複事項であることが認められるので、沖繩の戸籍中、子マツに関する事項はこれを鹿児島の戸籍に移記することなく、その儘消除するのが相当である。

更に上記のように坂正行に関する鹿児島の戸籍に沖繩の記載事項が移記登載される結果、必然的にその改製原戸籍である戸主坂五三六の戸籍に対しても亦移記事項と同趣旨の事項が索連して記載されるべきものである。以上の手続を了した上で同人に関する沖繩の戸籍は本来、重複戸籍であり、かつ復帰前の沖繩の戸籍の使命を果したものとして、その存在は許されるべきものではないので茲にこれを全部消除することとし、戸籍法第一一三条に則り主文のとおり審判する。

(家事審判官 徳嶺浩正)

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